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ハイクラス・エグゼクティブ層の方と面談していると、こんな話をよく聞きます。

「この求人、面白そうだけど必須要件を満たしていない」
「業界経験がないから難しそう」
「マネジメント人数が足りない」
「歓迎要件まで見ると、自分には合わない気がする」

求人を何十件も見た結果、

「ここも違う。あれも違う。結局、自分に合う求人なんてないのでは?」

となってしまう方もいます。

ただ、採用人事と転職エージェントの両方を経験してきた立場からすると、特にハイクラス層の方ほど、求人票だけを見て自分の可能性を閉じてしまうのは、かなりもったいないと思っています。

少し極端に言うと、

求人票は、「企業が本当に必要としている人材」を100%表現したものではありません。

私は、求人票を「企業が現時点で立てている採用仮説」くらいに考えています。

求人票は「正解」ではなく、企業側の仮説

求職者側から求人票を見ると、仕事内容、必須要件、歓迎要件、年収、勤務地など、かなり細かく書かれています。

なので、企業側が「こういう人を採用したい」と完璧に定義したうえで募集しているように見えると思います。

でも、実際に採用する側に回ってみると、必ずしもそうではありません。

企業が最初に持っているのは、求人ではなく「課題」だからです。

たとえば、

  • 新規事業を立ち上げたい
  • 開発組織を強化したい
  • DXを進めたい
  • プロダクトを改善したい
  • エンタープライズ顧客を攻略したい
  • 営業組織を立て直したい
  • 経営者の右腕になる人材が欲しい

といった、経営・事業上の課題があります。

その課題に対して、

「こういう経験を持っている人なら解決できるのでは?」

と考えて作られたものが採用要件です。

順番としては、

経営・事業課題 → 必要な役割 → 必要そうな経験 → 求人票

です。

ただ、求職者側は最後に出来上がった「求人票」だけを見て、自分が合う・合わないを判断します。

ここに結構大きなズレがあります。

「必須要件」には3種類あると思っている

これは、私自身が求人票を見るときに意識している考え方です。

求人票に書かれている必須要件は、大きく3種類に分けて考えると分かりやすいです。

① 本当に代替できない要件

まずは、本当に必須なものです。

たとえば、

  • 法律上必要な資格
  • 特定資格がなければできない業務
  • 自らプログラムを書くことが職務の中心なのに、開発経験がまったくない
  • 海外との交渉が業務の大半なのに、業務遂行に必要な言語能力がない

などです。

これは当然、簡単には代替できません。

② 「本当に欲しい能力」の代理として置かれている要件

一方で、実際の求人ではこちらもかなり多いです。

たとえば、

「SaaS業界経験5年以上」

と書かれていたとします。

でも、企業が本当に欲しいのは「SaaS企業に5年間在籍していたという事実」でしょうか。

もしかすると欲しいのは、

  • サブスクリプション型ビジネスへの理解
  • ARRやチャーンなどのKPIへの理解
  • 営業・CS・プロダクトを横断した経験
  • 継続率を高めるための業務改善経験

かもしれません。

要は、「SaaS経験5年」は、本当に欲しい能力を確認するための代理変数として置かれている可能性があるということです。

そう考えると、別業界の経験であっても、企業が欲しい能力を証明できれば評価される余地はあります。

③ 理想を書いた「できれば欲しい」要件

3つ目は、企業側の理想を全部並べているケースです。

採用担当として求人を作るなら、当然「こんな人が来てくれたら最高」という人物像も入ります。

でも、

年齢もいい。
業界経験もある。
マネジメント経験もある。
専門知識もある。
カルチャーも合う。
希望年収も予算内。

そんな100点満点の候補者が、都合よく転職市場にいるとは限りません。

実際の採用では、候補者と会いながら、

「この部分は足りていないけど、この強みがあるなら十分補える」

という判断が普通に入ります。

なので、求人票を見た瞬間に「8割しか合っていないから無理」と判断するのは、少し早いと思っています。

実際に「開発スキルがない人」が大手SaaSの開発系ポジションに入社した

ここからは、私が転職エージェントとして実際に支援したケースです。

※個人・企業が特定されない範囲で内容を一部抽象化しています。

ある方に、大手SaaS企業の開発系ポジションをご紹介したことがあります。

求人票だけを見ると、正直、最初から「ドンピシャ」と思える求人ではありませんでした。

理由はシンプルで、その方には開発そのもののスキル・実務経験がなかったからです。

求人票だけで判断すれば、

「自分は開発経験がないから関係ないですね」

で終わっていてもおかしくありません。

ただ、その方自身が企業には興味を持っていたので、まずは接点を持ってみることになりました。

そこで企業側が見たのは、単純な「開発経験があるか・ないか」だけではありませんでした。

その方には、

  • 開発チームと継続的に折衝してきた経験
  • 対象となるシステムを実際の業務で利用してきた経験
  • ユーザー側としてシステムの課題を理解していた経験
  • 現場から開発側へ改善提案を行ってきた経験
  • 業務側と開発側の間に立ってコミュニケーションしてきた経験

がありました。

企業からすると、そこに価値があったわけです。

結果として評価され、内定を獲得。

最終的には、当初「求人だけを見ると自分には合わないかもしれない」と感じていたその企業への入社を決めました。

このケースは、私の中でもかなり印象に残っています。

もし最初の段階で、

「開発経験がない=自分には関係ない求人」

と判断していたら、この転職は生まれていなかったからです。

企業は「経験の名前」ではなく、その経験から何ができるかを見ている

ここはかなり重要だと思っています。

転職活動をしていると、どうしても、

「SaaS経験がある」
「事業開発経験がある」
「PdM経験がある」
「マネジメント経験がある」

といった経験のラベルで自分を評価しがちです。

でも、企業が本当に知りたいのは、そのラベルそのものではありません。

「その経験を使って、うちの会社の何を解決できるのか?」

です。

先ほどの大手SaaS企業の例も同じです。

「開発経験がない」という一点だけを見るのではなく、

「開発側と業務側の間に立てる」
「ユーザー側の課題を理解している」
「システム改善の視点を持っている」

という別の価値を企業側が見つけた。

ハイクラス転職になればなるほど、こうした「経験の翻訳」が重要になると思っています。

ハイクラスになるほど「求人に人を当てる採用」だけではなくなる

若手採用では比較的、

「このポジションに必要な条件を満たしているか」

という観点で選考が進みます。

もちろん、ハイクラスでも要件マッチは重要です。

ただ、経験や専門性が高くなってくると、企業側の見方が少し変わることがあります。

「この求人に合う人か?」

だけではなく、

「この人を採用するなら、何を任せるのが一番いいだろう?」

という考え方が入ってくるからです。

特に、

  • 事業責任者
  • 部長クラス
  • 高度専門職
  • 新規事業
  • DX推進
  • CTO・CIO・VPoE候補
  • 経営幹部候補

などは、会社によって役割そのものがかなり違います。

同じ「事業責任者」でも、0→1を任せたい会社もあれば、100億円規模の既存事業を伸ばしてほしい会社もあります。

そう考えると、役職名や求人票だけで完全にマッチングすること自体が難しいです。

採用人事の立場でも、応募された求人だけを見ていたわけではない

これは、転職エージェントになってから知った話ではありません。

私自身、以前は事業会社で採用人事をしていました。

応募が入ったときに、まず見るのは当然、応募先ポジションとのマッチ度です。

ただ、それだけを見ていたわけではありません。

経歴を見て、

「むしろ別の部署の方が合うのでは?」

「この経験なら、別の責任者にも見てもらった方がいい」

「このポジションではないけど、一度会ってみたい」

と考えることはあります。

面接後も同じです。

応募ポジションではミスマッチだったとしても、候補者そのものが魅力的であれば、

「他のポジションで採用できないか?」

と社内で確認することがあります。

もちろん、すべての企業・人事がそこまで動いてくれるわけではありません。

それでも少なくとも、

求職者側が求人票を見た段階で、自分から可能性を0%にする必要はない。

これは採用側と転職支援側、両方を経験して強く感じていることです。

「求人票にないニーズ」は本当に存在する

さらにハイクラス採用では、そもそもすべての採用ニーズが公開求人になっているわけではありません。

理由はいくつかあります。

  • 新規事業なのでまだ公表できない
  • 組織変更前なので募集を公開できない
  • 現任者がいるため後任採用を表に出せない
  • まだ採用ポジションそのものが固まっていない
  • 積極採用ではないが、良い人がいれば採りたい

特にハイクラス層の採用は、経営戦略や事業戦略そのものに関わることがあります。

なので、公開求人だけを検索して、

「自分に合う求人がない」

と結論づけるのは少し早いです。

求人がないのではなく、まだ「求人」という形になっていないだけかもしれません。

一次面接は「合否判定」だけの場ではない

ハイクラスの方には、面接に対する考え方も少し変えてみてほしいと思っています。

もちろん面接なので、企業側の見極めはあります。

ただ、一次面接から一方的に、

「○か×か」

だけを判断しているとは限りません。

企業側も、

  • この人は何が得意なのか
  • 今後どんなことをしたいのか
  • 自社のどの課題に経験が活きるのか
  • この求人が本当にベストなのか
  • 別ポジションの方が活躍できないか

を、会話の中で探っています。

ハイクラスになればなるほど、

「企業が候補者を選ぶ場」だけではなく、「企業と候補者が接点を探す場」

という側面が強くなります。

だから「求人起点」ではなく「企業起点」で考えてみる

ここまでの話を踏まえると、ハイクラス転職では求人の探し方自体を少し変えてもいいと思っています。

通常は、

求人を見る

条件を見る

自分に合う

企業に応募する

という「求人起点」の転職活動になります。

これを逆にしてみる。

興味のある企業を見つける

その企業が抱えていそうな課題を考える

自分の経験が活かせそうな領域を考える

近い求人・オープンポジションから接点を作る

という「企業起点」の転職活動です。

特に年収1,000万円を超えるようなハイクラス層や、専門性の高い方には、この考え方をおすすめしています。

興味がある企業なら、まず接点を持ってみる

具体的には、

  • 最も近い募集ポジションへ応募してみる
  • オープンポジションへ応募する
  • 転職エージェントから個別に企業へ打診してもらう
  • カジュアル面談を依頼する
  • LinkedInなどから採用担当者へ連絡する
  • 知人経由で紹介してもらう

などがあります。

本当に行きたい会社なのであれば、経営者や採用責任者、事業責任者へ手紙やDMを送るという選択肢があってもいいと思います。

ただし、

「御社に入りたいです」

だけでは弱いです。

伝えるのであれば、

①なぜその企業なのか
②自分は何を経験してきたのか
③その経験を使って、その企業の何に貢献できそうなのか

まで考える。

ハイクラス転職では、「応募資格があります」より、こちらの方が重要になることがあります。

ただし「必須要件を無視して応募しまくれ」という話ではない

ここまで書いてきましたが、一つ誤解してほしくないことがあります。

何でもかんでも応募すればいい、という話ではありません。

私なら応募を検討するとき、

「必須要件を何個満たしているか」

だけではなく、

「自分の経験と、その企業の課題に接続できそうか?」

を考えます。

たとえば、必須要件10個のうち6個しか当てはまらない。

でも、企業が今後強化しようとしている領域について、自分にはかなり強い経験がある。

それなら、私は一度接点を持ってみてもいいと思います。

逆に、

「有名企業だから」
「年収が高いから」
「なんとなく格好いいから」

だけで、自分の経験との接点がほとんどないのであれば、単なる記念応募になってしまいます。

ハイクラス転職では「自分に合う求人を探す」から卒業してもいい

ハイクラスの方と面談していて、

「自分に合う求人がありません」

と言われたとき、私は少し違う角度から考えるようにしています。

本当に求人がないのか。

それとも、

求人票という枠に、自分を当てはめすぎているだけなのか。

キャリアを積み上げれば積み上げるほど、一人ひとりの経験は複雑になります。

「SaaS営業5年」

「PdM3年」

「マネージャー経験10名」

といった数行の条件だけでは、その人が持っている価値を表現しきれなくなっていきます。

だからこそハイクラス層ほど、

「自分に合う求人を探す」

だけではなく、

「自分の経験を必要としている企業を探す」

という考え方に切り替えてみてもいいのではないでしょうか。

まとめ|求人票に、あなたのキャリアの上限を決めさせない

最後に、この記事で伝えたかったことをまとめます。

  • 求人票は企業の採用ニーズを100%表現したものではない
  • 求人票は「現時点の採用仮説」と考えた方がいい
  • 必須要件には、本当に必須なものと代替可能なものがある
  • 企業が本当に欲しい能力が、別の経験で証明できることもある
  • ハイクラス採用では、人に合わせて役割を検討するケースもある
  • 求人として公開されていない採用ニーズも存在する
  • 求人に合わなくても、企業に興味があるなら接点を持つ価値はある

実際、私が支援した方の中にも、開発スキルがないにもかかわらず、大手SaaS企業の開発系ポジションと接点を持ち、それまでの折衝経験やシステム利用経験、改善提案経験を評価され、内定・入社に至った方がいました。

最初に求人票だけを見て、

「自分には関係ない」

と判断していたら、その転職は生まれていません。

だから私は、特にハイクラスの方にはこう伝えたいです。

求人ではなく、企業を見てください。

経験の名前ではなく、その経験で何を解決できるのかを考えてください。

そして、本当に興味のある企業があるのであれば、

「求人票に自分を合わせる」のではなく、「自分ならこの会社で何ができるか」を持って、一度接点を作ってみる。

そこから初めて見えてくる選択肢があります。

求人票に、あなたのキャリアの可能性を決めさせないでください。